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東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)55号 判決

原告

小西武雄

代理人

中島純一

外一名

被告

日清食品株式会社

代理人

阿部甚吉

外三名

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一(争いのない事実)〈略〉

(審決を取り消すべき事由の有無について)

二原告は、まず、本件審決が本件登録商標と引用商標とを観念上非類似の商標であるとした点化おいて、事実の認定及び判断を誤つた違法がある旨主張するが、原告の右主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち、本件登録商標のうち、「ラーメン」の文字部分は、その指定商品が乾燥即席味付ラーメンであるところから、中華麺であるラーメンを表示するものであることが明らかであり、他の「チキン」の文字部分は、「チキンライス」「チキンカツレツ」「チキンシチュウ」等の用例にみられるように、英語の「chicken」(チキン)を意味するものと解するのが相当であり、したがつて、本件登録商標は、右「チキン」と「ラーメン」とを結合して成る文字商標であるというべきである。被告は、この点について、本件登録商標は「チキンラーメン」と一連一体にのみ把握すべきものであるとして、もともと「チキンラーメン」なる語は、被告の新製品である乾燥即席味付ラーメンの固有名称的なものとして新造採択され、大量に宣伝使用した結果、これを商標として使用するときは、被告の製品としてのチキンラーメンそのものを観念せしめるものとなり、したがつて、一連一体にのみ把握されるべき必然性がある旨主張するが、そのような事実を的確に認定するに足る証拠資料は、本件にあらわれたかぎりにおいては存在しないといわざるをえない。

しかして、「チキン」の語(英語「chi-cken」)が、わが国においては、前記用例に見られるように、一般に食品名と結合されて、もつぱら、比較的庶民的な鶏肉を素材とする料理を表示するものとして、日常語化して使用されてきていることは、当裁判所に顕著な事実であり、したがつて、取引の実際において、右のような「チキン」が、食品名の一種である「ラーメン」と結合して成る本件登録商標「チキンラーメン」が取引者及び需要者に直感せしめるところも、その指定商品「乾燥即席味付ラーメン」との関連において、右の範囲を出ることなく、加工食品としての乾燥即席味付ラーメンにつき、調味ないしは加工材料に鶏肉を用いたものとの観念を生ぜしめるに止まる、と認めるのが相当である。

もつとも、一般に、英和辞書において、「chicken」の語は、鶏肉及びひな鳥のほか鶏をも意味するものと説明されていることも、当裁判所に顕著な事実であるが、本件登録商標のように外来語から成る商標の観念を定めるについては、その外国語としての本来の意義、すなわち、文字としての正確な意義だけを唯一の根拠とすべきものではなく、これが、わが国において、商標として用いられた場合、指定商品との関連において、わが国の取引界の実情からみて(本件の場合、本件登録商標が比較的大衆的な食品に用いられるものであることを考慮しなければならない)、取引者、需要者によつてどのように認識されるかによつて決すぺきものであるから、わが国における日常語化された外来語として「チキン」の意味するところが前認定のとおりである以上、英語「chicken」に、その本来の字義として鶏「にわとり」の意味があることは、何ら前認定の妨げとなるべきものではない。

一方、引用商標は、雄雌二羽の鶏の図形と「とり印」の文字との結合から成る構成に徴し、生きたにわとりを直感させるものであり、「にわとり」の観念を生じさせるものであることが明らかである。したがつて、前記認定のように、加工食品として、鶏肉を調味材料として用いたラーメンとの観念を生じさせるに止まる本件登録商標は、引用商標とはその観念において異なるものといわざるをえない。

本件登録商標と引用商標とが、観念において相違すること右のとおりである以上、その外観及び称呼が異なるものであることは原告の認めて争わないところであるから、さらに両商標の指定商品の異同について判断するまでもなく、両商標は非類似の商標というべく、したがつて、本件審決がこの点の認定判断を誤つたとする原告の主張は、理由がないものといわざるをえない。

(むすび)

三以上のとおりであるから、その主張のような違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。(三宅正雄 石沢健 滝川叡一)

本件登録商標

昭和三十五年十二月二十二日登録出願

昭和三十六年九月二十日登録(登録番号第五八〇、五〇〇号)

指定商品 旧第四十五類 乾燥即席味付ラーメン

引用商標

昭和二十七年四月二十四日登録出願

昭和二十八年六日月二十四日登録(登録番号第四二六、八五九号)

指定商品 旧第四十七類

小麦粉その他本類に属する商品(但し麦類及びその類似品を除く)

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